猫の多発性骨髄腫 治療
「多発性骨髄腫」
簡単に言えば、骨髄(血液)のがんです。
骨髄の中にある形質細胞が腫瘍性に増殖して、いろいろな問題を起こします。
人も犬も猫も、発症する病気です。
ポピュラーな異常として挙げられるのは、骨融解(骨が溶けます)。パンチアウトなんて表現されて、レントゲンにて骨の一部に穴が空いているように写ったりすることもあります。
もう一つは、目に見える変化ではありませんが。異常増殖した形質細胞が「M蛋白」といわれる抗体を過剰に作り続けます。
このことで、血液中のタンパク質、特にガンマグロブリンが突出して高くなります。これは、蛋白分画という血液検査で検出が可能ですし、尿検査でも特殊な蛋白(M蛋白の一部)が検出されます。
確定診断するには、骨髄検査が必要なのでしょうが。これは慣れないと難しいので、血液学のスペシャリスト達にお願いするのが懸命だと考えています。麻酔も必要な検査なので、一発でうまく取れないなんてことがあってはならないので・・・
教科書的な詳細は、ネットで調べてください。チャットGPTなんて今時のやつでも、説明してくれるはずです。
今回、来院したのは、西の方から来ている14歳の猫、Rちゃん
以前同居していた猫の受診がきっかけで、飼い主さんとは知り合い。その流れで、他の子も診てほしいということからお付き合いが続いています。
元々は、健康診断で脾臓に腫瘤性の変化があったことから、経過観察を定期的に行っていたのですが。
ある日来院すると、昨日からやや食欲がないとのこと。
体重も以前よりも1キロ近く減っている。
もともと、体重にはかなり余裕があったので、減ったっといっても・・・
とはいえ、1キロ減は大変なことです。
早速、血液検査から始めてみると
貧血がある、血小板も少ない。白血球は以前から省エネなので少なめ。
血球2系統の減少??免疫か???
続いて出てきた、血液化学検査では。総蛋白がぶっ飛んでます。
しばし、脳をフル回転。引き出しを開けまくり!!
「あっ!!これ多発性骨髄腫だ!!!」
って、そうはいっても猫にも出るのか?(冒頭では人も犬も猫もなんて書きましたが、この時点では???)
過去には、犬で1頭経験していますが、それももう10年以上前。その時は診断までもう少し時間もかかったし、いきなりピンっとはきませんでした。
とにかく、違うなら違うでそれも診断なので。追加検査。
尿を採取して、全身のレントゲン評価。外注に出す分の血液ももう少しもらって。
確定診断は骨髄検査も必要なことを伝えつつ、病気の説明。
元々はかなり緊張するというRちゃん、「他の病院では大変なんです」っておっしゃる飼い主さん。幸い、私のことは決して好きではないでしょうが、ウチではおとなしく検査もさせてくれています。でもそれが、大学病院で検査となれば、心配な部分も。
とにかく、外注検査でちゃんと出てくれれば、無理に骨髄検査しなくても良いので。そんなところも祈りつつ。
待つこと、2日。
まず最初に出てきたのは、尿検査。
ベンスジョーンズ蛋白(通常は存在しない尿中のタンパク質の検出です)が陽性。
もうこれで、ほぼ黒と言っていいので、飼い主さんに伝えて、まずはステロイドの処方。
また、多発性骨髄腫は、血液のタンパク質が異常に増えるので、血流がドロドロしてしまいます。よって、血栓形成が予想されます。くわえて、ステロイドを使うと、それはそれで血栓形成を促進する可能性があるので、抗血栓剤も併用。
待つこと、さらに数日。蛋白分画の検査結果も出てきて。結果を見れば、良いか悪いか、もう真っ黒。

「多発性骨髄腫」で良いと考えます。
先行して処方していたステロイドにも良く反応してくれて、一般状態は良好。
続けて、抗がん剤の投与も始めていきます。
多発性骨髄腫は、ずっと投薬しながらコントロールしていく病気ですので、ものすごく副作用が出て続けられないなどの理由がない限り、日々お薬を飲んで、定期的に検査しての繰り返し。年単位で比較的緩やかに経過して行ってくれる病気のイメージを持っています。
いかんせん、尿路結石のような数を経験はしていないので、あくまでもイメージです。
猫の多発性骨髄腫なんて、生涯でもう一度出会うのか???
経験しながら、壁に当たった時には必死に考える。縦横の人とのつながりを持って、困った時には経験している先生や専門家などに意見を聞く。もちろん、抱え込まずに任せるべき症例は、任せる。
それが、ジェネラリストである我々獣医師の基本的なスタンスです。
Rちゃんも、今後どのような展開になるかは、わかりません。同じ病気でも、治療への反応などは様々、その子オリジナルの治療になります。
いずれにしても穏やかな日々を長く続けていけるように、サポートしていきます。
おおくぼ動物病院 www.okubo-vet.com



