軟部外科
SURGERY
会陰ヘルニア(えいんヘルニア)手術
おもに中年以降の去勢していないオス犬に見られ、なかでもW.コーギーやM.ダックスといった犬種が好発とされています。
肛門の周囲の筋肉を含む骨盤腔内の筋肉が薄く弱くなってしまうことで直腸が蛇行し、排便困難を起こしてしまう病気です。より進行した症例では、膀胱も反転しヘルニア嚢内へ突出してしまうため排尿困難もみられ、命にかかわる緊急の症状となることもあります。
多くの症例では排便困難により直腸内に宿便が貯まってしまい、それが肛門周囲の腫れとして観察されます。排便困難が続くことにより食欲の低下などもみられることがあります。
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会陰ヘルニアのお尻の写真です。直腸の蛇行があるため、矢頭▲で囲った部分に便が貯まってしまいます。(肛門に指を挿入して確かめています。)ほとんどの症例で、程度の差はあるものの左右両側にヘルニアが観察されます。この症例は3〜10時の範囲でスペースが広がっていました。
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写真:毛刈りをした状態です。
この症例の場合、慢性的に便が貯まって大きく腫れていたために肛門周囲の皮膚の著しい伸展が良く分かります。主に肛門左側に便が貯まってしまいますが、右側にも重度のヘルニアが観察されました。 -
写真:この症例では、膀胱がヘルニア嚢へ突出し、くわえて小腸の突出も観察されました。
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写真:他院にて会陰ヘルニアの手術をした時に使用したデバイスが写っています(矢印)。残念ながら、再発してしまったため当院へ受診されました。この症例も、膀胱の変位がありました。
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写真:直腸に大きな糞塊が観察されます。この症例の場合は、排便障害により食欲の低下もみられました。
手術方法について
オス犬の場合はホルモン分泌が原因とされており、早い時期の去勢手術により予防することができます。まれですが、去勢手術済みのオス犬・メス犬・猫においても起ることがあります。 排便困難の程度は症例により様々です。最初は「少し出づらいかな」という状態でも年月を重ねていくうちに悪化し、最終的には「気張っても少ししか排泄されない」ということになってしまいます。軽度であっても症状を訴えているのであれば、重症にならないうちに外科的な治療をお勧めします。便を柔らかくするような内科療法もありますが、根本的な解決にはなりません。中には、飼い主様には症状を訴えていることがわからない場合も経験します。
当院では、医療用ヘルニアメッシュを使用し左右同時にヘルニア孔を修復する手術方法をお勧めしています。人工物を使用するデメリットはありますが重度の生体反応は極めてまれであり、ほかの手術方法と比べて再発率が低いことが特徴です。膀胱や結腸の変位を併発している症例では、それら臓器の固定術、未去勢の犬では去勢手術も併せて行います。
犬の胆嚢粘液嚢腫、猫の胆管閉塞、手術
肝臓に隣接している胆嚢(たんのう)という臓器があります。胆嚢の中には胆汁(たんじゅう)が貯留しており、脂肪の代謝に一役かっています。また、胆汁に含まれる成分は、細菌毒(エンドトキシン)に働きかけている事もわかっています。
胆嚢内の胆汁は、胆嚢‐胆嚢管(たんのうかん)−胆管(たんかん)‐総胆管(そうたんかん)というルートを通って、十二指腸に排泄されています。
胆管閉塞は、胆管もしくは総胆管において胆汁の流れがストップしてしまう病気です。
閉塞してしまう原因はさまざま、犬も猫も起こります。
原因について
- 結石(胆石)による閉塞。
- 胆嚢内で胆汁が固まってしまい流れない(犬の胆嚢粘液嚢腫)
- 胆嚢炎や胆管炎による閉塞。
- 膵炎・腫瘍などによる二次的な閉塞。
犬の胆嚢粘液嚢腫
犬特有の胆嚢の病気で、胆嚢内に貯留している胆汁がコーヒーゼリーのようにドロドロに固まってしまい流動性を失ってしまう病気です。 (それ以前の病気として「胆泥症」がありますが、こちらは流動性があります)
胆汁が固まってしまうと・・・肝臓や肝内胆管にも炎症が広がります。くわえて細菌感染も起りやすくなり進行によっては胆嚢破裂、胆管閉塞(黄疸)を招きます。
診断
血液検査と超音波検査での診断が主となります。明らかに流動性を失っている状態は分かりやすいのですが、超音波像は主観的な要素が多いため流動性が完全になくなっているか、そうではないかといった部分での診断精度は低くなってしまうのが現状です。
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胆嚢粘液嚢腫の超音波像です。この症例では、明らかな流動性の喪失および肝臓や胆管への炎症の波及が激しく起っていました。
治療
最初は内科治療を試します。胆汁を薄める薬や胆嚢を動かす薬などを使用して血液検査数値や超音波像の改善状況を観察します。内科療法で効果がみられない場合や明らかな胆汁の流動性の喪失と肝臓、胆管への炎症がある場合には外科的な治療を考えます。
そのほか、激しい全身性炎症や血液凝固障害に対する治療、消化管を動かすための栄養チューブ設置など、多岐にわたる積極的な治療が必要です。
胆嚢切除術
悪くなってしまった胆嚢を切除する手術です。胆嚢破裂や重度の胆管閉塞(黄疸)がある症例では救命率が圧倒的に低下してしまいます。胆嚢摘出は術前の状態にもよりますが手術侵襲が高く術後の徹底した管理が必要となります。また、流動性を保っている胆嚢を切除した場合、胆汁を貯蔵しておく場所がなくなってしまうため術後黄疸になる可能性もあり、手術適応の見極めは慎重に行わなくてはなりません。
術前に黄疸を呈している症例では、総胆管の疎通も確保しないといけません。洗浄はもちろんのこと、十二指腸を介して総胆管へ直接的なアプローチを行う事もあります。
犬の場合は、胆嚢そのものが悪くなってしまっている病態がほとんどですので、十二指腸などとの吻合による胆汁排泄ルートの確保は困難となります。
猫の胆管閉塞
猫における胆管閉塞の原因として挙げられるのが、三臓器炎(胆管肝炎・膵炎・腸炎)に伴う総胆管の閉塞です。老齢の猫ではこのような炎症疾患が単発もしくは併発して起ることがあります。猫の肝リピドーシスによる黄疸は、また別の病態ですので手術が適応となるとは限りません。
診断
血液検査・レントゲン検査・超音波検査を用い総合的な評価を行います。
治療
それぞれ閉塞している原因に対し内科療法を行います。内科療法で治療効果が得られない場合は外科的な治療を行います。
胆嚢十二指腸(小腸)吻合術
胆嚢自体に問題がなく閉塞を起こしている場合に適応となります。総胆管からの胆汁排泄が困難な場合、胆嚢を十二指腸もしくは小腸に直接吻合(つなぐ)することで胆汁の流れるルートを確保する方法です。
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実際に吻合を行っている手術写真です。
胆嚢ドレナージ(胆嚢瘻チューブ設置)
胆嚢内から排泄できない胆汁を、カテーテルを使用して体外に排泄するルートを確保します。この処置は、一時的もしくは中長期間行うことがあります。
ご注意ください
胆嚢疾患は内科療法が中心となることが多いと考えますが、内科療法に反応が悪い症例においては、積極的な外科手術により治療が可能な場合があります。