犬の前立腺肥大 血尿 排尿困難
オス犬には、膀胱の後ろに前立腺という臓器があります。
前立腺は、オスのホルモンに影響されるので、去勢手術を行うことで大きく肥大することを防ぐことができます。
前立腺肥大を起こすと、前立腺部の尿道が締め付けられるようになるので、排尿困難が起こります。
実際には、排尿困難といっても全く出なくなってしまうわけではなく、
「出るまでに時間がかかる」とか「出てはいるけど、膀胱に残ってる」とか
まあ、その程度の変化なので、犬自身は気がついているのかもしれませんが、
飼い主さんが気が付かないこともしばしばあります。
排尿困難の他には、出血(血尿)や前立腺の中に嚢胞を形成してしまうことも観察されます。
稀な病気ですが、「去勢手術をおこなっているのに前立腺が腫れてきた!」
それは、前立腺癌の可能性があるので、それはそれでまた違う機会に。
今回来院したのは、懇意にしている先生からの紹介のRちゃん。
時々血尿が見られるとのこと。
紹介していただいた先生から電話で連絡もらって話している時にすでに聞かされてはいましたが。
「1歳のオス犬の慢性的な血尿」?????
「1歳?!」「何が起きているのか?」想像してみても全くピンとこないので、診るまでは謎。
そして、来院したのはRちゃん。
飼い主さんに状況を伺っても、やっぱり時々血尿がみられるとのこと。
ただし、頻尿はみられない・・・ということは膀胱炎(膀胱粘膜からの出血)ということは可能性が低い。
となると、上流か?下流か?
エコーをあてて、膀胱に直接針を刺して採尿。
その尿は、綺麗な黄色。肉眼的な血尿もなく検査をしても潜血反応もない。
ということは、出血は下流。
そのままエコー検査を続けて診てみると・・・
でかい!前立腺でかいです!!1歳とは思えない感じででかい!!!
その後、尿道造影では異常はない様なので、血の出どころは前立腺の可能が高くなってきました。
(矢印の部分が前立腺)
エコー当ててる我々獣医師じゃないとわかりづらいですが、これ大きいんです。
通常の前立腺肥大はシニアになってから。
私の経験でも、4歳が一番若い。その時の子は、スタッフィー(スタッフォドシャーブルテリア)。
犬を見た目で判断してはいけませんが、ゴリマッチョの未去勢のオス犬でした^^;
(想像つかない方は犬種調べてください)
そして今回は、1歳のRちゃん・・・見た目によらずイケイケなのね?!
なんて、飼い主さんとも談笑しつつ、治療の真面目な話。
まずは見えているところからやってみようということで、去勢手術を提案。
予定を組んで、手術当日。
麻酔薬投与の前に、装着可能な心電計を・・・
あれ?
「期外収縮出るねぇ」単発で不定期に不整脈が観察されます。
試しに、心拍数を上げるような薬を投与。心拍数はしっかり上がるけどやっぱり期外収縮はみられる。
期外収縮は基本的に空撃ちになるので、脈が飛びます。要するに心臓からちゃんと血液が送り出されません。
「これ、一回中止だね」飼い主さんにも状況を説明して、仕切り直し。
そのまま、これまた懇意にしている大学病院の循環器専門医に連絡して、麻酔のリスクを評価してもらうことに。
数日後には、大学での診察も終了して「期外収縮でますが、問題ない様ですので。手術行ってください!」
って直接LINEにメッセージももらって。(もちろんオフィシャルな報告書もいただいています)
「よかった、よかった」
そして、再度手術。
やることは、どの病院でも行っている去勢手術。
とはいえ、トラブルが起きた時にすぐに対処できるように、いつも以上に緊急薬を準備。
勤務医も看護師も何が起きていて、どんなリスクがあって、何をするべきなのか?術前にミーティング。
準備の甲斐あってか、手術中の麻酔も特に問題なく終了。
今後もう少し長時間の手術も想定される子なので、そちらも十分いけそうな手応え。
無事に退院となりました。
今後は、前立腺が縮小するのを待って、血尿の再発を観察することになります。
紹介していただいた先生も、大学病院の循環器専門医も、獣医師会の集まりで知り合い、一緒に呑んだりして懇意にしている仲。
開業獣医師は、獣医師会に所属していなくても仕事はできますが、所属してみて初めてわかる人との繋がりみたいなもののメリット。今時の獣医療は専門性が高くなっています、この様な連携をスムーズに行えることは患者さんにとっても安心につながるのではないでしょうか。
自分自身も、多くの専門性を有した先生方も、紹介してきた先生によって仕事のクオリティが変わることはありませんが、「知ってる先生」と「全く知らない先生」やっぱりそこは人なので、「知ってる」方がいいに決まっています。
8月の終わりは、毎年恒例の獣医腎泌尿器学会。こちらは最先端のコアな学術集会。
次の日曜日は、以前私も発表したことがある、獣医師会主催の関東3学会。こちらは各県の学術大会を勝ち上がった優秀な演題が、分野に問わず発表される学術大会。神奈川県獣医師会の学術担当として参加してきます。
まだまだ、暑いですが勉強の秋の始まりです。
おおくぼ動物病院 www.okubo-vet.com