犬 尿管結石手術 膿腎 敗血症
今回は、県内の北の方からやってきた、8歳になるMちゃんの話です。
かかりつけの病院で、水腎症と結石による尿管閉塞を指摘、2次診療施設を紹介されていたのですが、状態が悪いため、飼い主さんの判断で急遽当院を受診。
やってきたのは、ここ数年流行りのマルプー。
犬のシュウ酸カルシウム結石の場合は犬種に依存することの方が多い印象ですが、マルプーは初めて。
「どの犬種でもある時はあるんだなぁ」なんて思いながら、まずは状況の把握。

レントゲン検査では、右の尿管に2箇所、結石の閉塞があります。もちろん腎臓、膀胱の中にも結石が・・・
「石だらけ」
続けて、エコー検査でさらに確認。
右の腎臓は、久しぶりに診るくらいのパンパンの水腎症。しかも、濁ってる・・・膿腎です。



そして肝心の血液検査は、BUNもCreも正常値。SDMAが若干上昇していますが、腎臓の数値的には大きく問題はなさそうです。
普通に考えれば、尿管に閉塞してる結石を摘出して、腎臓の流れを良くして抗生物質で終了。
といきたいところですが。
実はこの子、以前にも他院にて尿管切開の手術を受けています。
そうなると、術後の癒着も問題に。
さらには、犬の場合、腎臓の炎症に伴い自然に発生する癒着も多く経験します。
そして最大の問題。この腎臓、果たして機能してるのか?
機能していなければ、この腎臓は感染が持続するため摘出が適応になりますが、癒着により腎臓の血管系にアプローチできない(摘出できない)ってこともあります。大体にして、尿管へのアプローチも??
この癒着などの問題は、CT撮っても正確にはわかりません。お腹を開けてみての判断。
仮に、想定するすべてのことが叶わなかったら??悩ましい(T ^ T)
そんな悩みを、飼い主さんへの説明と合わせてできる限り共有してもらい。
この日は、来院したのも夕方でしたので、明日手術を行うことで十分な内科治療を施し一時帰宅。
もちろん、この時点で入院でもいいのですが、犬の性格・コンデション・なるべくストレスをかけないことを優先的に考えると、今夜は家で寝てもらうことを選択しました。
そして、翌朝。改めて来院した、Mちゃん。
術後のトラブルに対応するために、手術直前の数値も知りたいので、改めて必要な分だけ血液検査。
すると、昨夜上昇していた白血球は、低下し始めています・・・敗血症の傾向に。
ヤバっ!!
こうなると、時間をかけた手術を行うと更なる身体の反応を加えることになりかねない。
昨日説明したすべての提案は一度無し、術式の変更。
右の腎臓へ腎瘻チューブを設置して、あとは敗血症対応の抗生物質を第一選択として、内科管理。
結局、想定した一番丁寧な(逆に悪くいえば2回に分けた手術)対応で行うこととなりました。
「これで、心配していた腎機能の残存も把握することができるし!とにかく状態の改善!!」
ということで、開腹。
優先すべきは短時間で終わらせることなので、腎臓以外の癒着の状況把握は二の次。
それでも気になるので、癒着はどうかな?って簡単に探索。
腎臓の周囲はばっちり癒着、尿管の中央付近まで・・・泣
嘆いていても始まらないので、やること終わらせて、救命に全力を尽くします。
1回目の手術は無事に終了。
心配していた右腎臓の機能もしっかりとあり、腎瘻チューブからの排泄も良好。
内科管理して3〜4日、抗生物質も効いてくれている様子(のちに出た培養結果にも合致していました)。
当のMちゃんは、すっかり治ったつもり。ストライキもピーク(T . T)
「そんなこと言ったって、チューブが体から出てますから、帰れませんよ」って言い聞かせながらの入院管理。
さあ、2回目の手術を考えましょう!!
っとその前に、現在の閉塞の状況を把握。


あとは、例の癒着。閉塞箇所の尿管にアプローチできるのか????
結果的に、閉塞していた膀胱付近の尿管は、癒着もなく楽にアプローチが可能!
2回目の手術も無事に終了。閉塞していた結石は摘出することができました(^ ^)
よかった、よかった。
さすがに一晩はぐったりでしたが、朝からは予想に反して?缶詰もりもり。
一応あげてみたドライも!!!
ストライキも終了したようで、2日後には退院。
術後の検診でも、問題なし!

敗血症は、命に関わる重大な病態です、助けられなかった子もいます。
「原因除去をして、効果のある抗生物質を使用する」治療はこれしかありません。
久しぶりに、長い入院管理でしたが、無事に終わってよかったです。
ただし、シュウ酸カルシウム結石が作られることは治療できないので、これはあくまで対症療法。
こんなに手間がかかるのに・・・
これからもお付き合いが続きます。
おおくぼ動物病院 www.okubo-vet.com