猫 腎性貧血の治療薬
猫が加齢と共に患う慢性腎臓病。
若いのに、
結石が詰まったりして起こる急性腎障害。
いずれにおいても、「腎性貧血」を起こすことがあります。
血液の大半を占める、赤血球。
正常値より低下すれば「貧血」となります。
ただし、その数は増えすぎても困るので、120日くらいで血液中の赤血球は寿命を迎えます。
かと言って、一定数はキープしないといけないので、赤血球の再生(新しく生まれる)により保たれています。
そんな赤血球の再生に役立っているのが、「エリスロポエチン」という造血因子。
この「エリスロポエチン」、腎臓から産生されています。
勘の良い方はお気付きだと思いますが、腎臓が悪くなるとエリスロポエチンの分泌が悪くなり、赤血球の再生に支障がでます。
要するに、寿命で死んでしまう赤血球に対して、再生される赤血球が少ないので、貧血が進行します。
そんな状態に対応するために、医学領域では「エリスロポエチン製剤」というものが、薬として販売されています。
古くは「エスポー」(商品名)
これは、週に2−3回注射しなくてはいけませんでした。
その次に登場したのが「ネスプ」(商品名)
これは、週に1回の投与で効果が得られ、かなり使い勝手の良い製剤です。
現在も、多くの症例で使用しており。
特に、慢性腎臓病における貧血の改善には、効果的です。
そして、今回登場したのが、「エポベット」(商品名)
これ、猫用です。
人用ではありません。
実は、販売前の治験の時点でお声がかかり、効果の実績については知っていました。
「いつ出るのかなー」って待ち望んでいましたが、ついに発売となりました。
ただし、新薬ってこともあり高価。
なので、「ネスプ」で効果の出ている症例に使うということは考えておらず。
「あのタイミングで使ってみよう」と常々準備をしていました。
そして、いいのか悪いのか先日、適応だとと考えていた症例が・・・
その症例とは、尿管閉塞で水腎症となり、腎臓の機能がかなり悪い状態。(いつもの難敵です)
そんな子達は、診断の時点でしばしば非再生性貧血(腎性貧血)をともなっています。
治療開始から点滴をこれでもかってくらい入れるので、
脱水の改善と共に濃縮していた血液も薄まり、
結果、「%表示」の貧血の値は、低下。(=貧血の進行)
腎瘻チューブの設置から行う子達は、2回目の手術前には貧血もかなり進行。
当然私も、進行することがわかっているので、治療開始当初(まだそれほどひどい貧血になっていない状態)から
「ネスプ」の投与を開始。
でも、いつも反応が悪く、貧血が思ったように改善しない。
仕方がないので、輸血までして、2回目の手術を終わらせたりってことがよくあります。
そんな中、今回は、早速「エポベット」。
結果からお伝えすると、結局輸血して2回目の手術を終わらせることにはなりましたが。
造血の反応は、抜群◎。
今回の子に関しては、赤血球の消費が激しかったので、その造血反応も追いつかず・・・
と、いった感じでしたが。
ネスプよりは、格段に良いです。
どうしても、人の薬を使って治療をしている我々は、
反応の悪さや容量の調整など、見えない壁が立ちはだかることがあります。
獣医師にとっても、動物にとっても。
このような新しい薬が発売されることは、大歓迎。
また次の子の時に、使ってみましょう!!