猫の尿管結石 水腎症 手術
診療としては定期的?に診ている尿管結石ですが、
ブログに書くのは久しぶりの尿管結石の手術となるでしょうか。
今回の子は、市内からの来院。4歳になる、雑種猫のTちゃんです。
うちに来る前に他院で診察を受けて、右腎臓の水腎症と尿管結石による閉塞を指摘されていました。
ただし、その病院では手術が難しいということで、飼い主さんもどうしたら良いものかと悩まれていましたが、
めぐりめぐって私のところへ・・・
来院してケージから出てきたのは、立派な体格のTちゃん。メインクーンが入ってるのかな?
これまでの経過を伺い、まずは全体的な検査。
レントゲンとエコー、そして血液検査と尿検査。
すると確かに、右の尿管に結構な大きさの結石が存在し、それが腎臓からの尿の流れを妨げている様です。


ただし、血液検査では腎臓の値は正常値。
まだ若いから腎機能もピカピカなのか?長期にわたって結石が存在して体が慣れてしまっているのか?
現状では想像の域を脱しませんが、
腎機能は保たれているので、緊急で手術なんて感じではなく、少し猶予がありそう。
当のTちゃんは、食欲があまりない様ですが、まずは内科治療を試してみることに。
実は、タイミングが悪く来院の1週間後には病院の夏休みが入ってしまうため、私たちのためにも少し猶予があるのは助かりました。
皮下点滴をして翌日、食欲も出てきて少し安心ができる状態に。
とにかく、これで時間稼ぎ。休み明けには、手術も検討した対応を考えます。
そして、休み明けの診察・・・
あれっ!?
右の水腎症が大きくなり、尿管にはやっぱり結石・・・でも結石よりも膀胱側の尿管も膨らんで観察されます。

これ、結石とは別に尿管炎も併発してます(T . T)
この状態では、手術して結石を摘出しても違う理由で尿管の閉塞が起きているので、もうひと手間かけないといけません。
でも幸いなことに、この状態でも食欲はキープしてくれていたので、
今度は、尿管を広げるような内服を試してみることに。
良いのか悪いのか、待つことによってこの子に起こりうる病気の傾向も把握できましたが、
お祈り。(いつものやつ)
翌日、水腎症は以前の状態まで改善。
これなら尿管の結石を手術で摘出すればよさそうです。
で、手術はどのように行うのがベストなのか??
実は、このTちゃん。
閉塞している尿管の結石の他に、右腎臓内にも大きいのがもう一つ。左の腎臓内にも結石が・・・

ということは、今回閉塞している結石を摘出したとしても、今後また同じことが繰り返される可能性は否定できません。その度に手術なのか???
悩ましいこの様な場合の病態時に候補に挙がるのは、SUBシステムに代表されるデバイスの使用。
(ホームページにデバイスの情報があります。/https://www.okubo-vet.com/urology/)
でも、この子はまだ4歳。
できる限り使用したくありません、先が長すぎます。
しかも、さらに細かなことを言えば、腎臓の数値が正常値なのに行う手術。確率論から言えば、閉塞している結石は状態を悪化させている可能性が高い、ですが、もしかしたら摘出しても大きな変化はない、なんてこともあるかもしれません。しかも、手術をするわけですから、合併症の発症のリスクも・・・
っと、こんな私の悩みを飼い主さんも一緒に悩み、理解をしてもらい、
今回は尿管を切開して、結石摘出のみで対応することに決定。
さあ、開腹。
実際に結石が閉塞している場所は、腎臓から出てすぐ。
この場所は、尿管全体も脂肪で覆われており、まずは綺麗に尿管を露出することから始まります。
で、出てきた尿管はだいぶ肥厚(腫れています)、
指で手繰って結石の存在を探しますが・・・微かに触れるのみ。
結石が透けて見えてくれれば、どんなに楽か・・・なかなかそんな症例は経験しません。
尿管越しに結石を指で保持しながら、直上にメスを入れて一発で切開。(書くのは簡単)
私は、右利き。
左の指で保持すると、手のひらに右の腎臓が当たってしまいます・・・うまく持てない。
仕方がないので、立ち位置を変えて助手側に。
これなら尿管は手元から遠い位置となりますが、左手には何も当たらず、いけそうな手応え。
今回の結石は4mmと大きいから、だいぶ肥厚した尿管越しでも指でなんとか存在を把握できましたが。
もっと小さな結石だと・・・ゾッとします。(実際には、今回の尿管の状態で2mm以下は探せないと思います)
尿管を切開して、結石を摘出。
上流下流の疏通も確認・・・カテーテルで洗ったら小さな結石が流れてきたので切開部で回収。
これは、だいぶ腎臓内で作ってるね。
尿管を縫合して、終了。
あとは、水腎症が改善してくれることを願いながら、経過観察。
抜糸の時には、だいぶ縮小。

さらに1ヶ月後には、やや拡張は残りますが、正常に近い腎臓に戻りました。

もちろん、合併症もなくTちゃんもばっちり元通り。
とはいえ、まだ腎臓内には結石もあるので、これからも長い付き合いになりそうです。

病院にも慣れて、いつも検査の時は、もう少しリラックスな顔してるんだけどね。
お祈りは続きます。
おおくぼ動物病院 www.okubo-vet.com