超高齢犬に手術をするということ 犬の水腎症 腎臓摘出
来院したのは、14歳越えのダックスのKちゃん。
近くの病院でのエコー検査にて、水腎症を指摘されました。
その病院の先生は、「高齢・・・少し様子を見ましょう」と、提案。
躊躇するのは当たり前だと思います。
でも、飼い主さん的には、
「なんとかできることは無いだろうか?このまま温存して大丈夫なのか?」
こちらの考えも、当たり前といえば当たり前。
ということで、ウチに来院。
大体、同じような思いから来院する方々が多いので、慣れてるといえばそうですが・・・
今回も難題がのしかかります。
まずは、検査。
腎臓の数値は、悪くない。というかほぼ正常値。
当のKちゃんも、悪くない。元気なお年寄り。
エコーは・・・右の腎臓から尿管がパンパン。
久しぶりに見る感じのパンパン。
直感的には、機能していない感じ。
手術の前には、造影検査をして右腎臓の機能の有無を予想してからとなりますが。
現時点でも尿路に感染が認められ、このまま温存しておくとやがて膿腎になるリスクが高く、
その時には命の危険と直結。
おそらく、摘出がベストでしょう。
まあ、手術手技のことはいいとして。
考えるべきは、超高齢。
高齢犬に全身麻酔をかけて手術をするということのリスク。
簡単にいえば、思いもよらないことが平気で起こります。
いつの場合も細心の注意をしながら、細かい異常の芽を摘みながら麻酔をかけ手術をします。
そこまでしても、
手術中の管理はもちろんのこと。
麻酔の覚醒時の異常、覚醒してからの異常。
そして、手術のダメージからの回復の遅れ。
今回のKちゃんの場合も、まずはその話から飼い主さんとじっくり行います。
ハイリスク・ハイリターンを望んだ時の覚悟。
手術を選択しなかった時の覚悟。
病気になってしまった場合には、
残念ながらいずれの選択においても、亡くなってしまうときが来ます。
その時に、どう思えるか?
病院はどちらの覚悟も精一杯フォローします。
しかし、最終的な局面で覚悟はしていても、後悔に変わることもあります。
その辺の思いまで、私としてはどうにかしてあげたいのですが、全てを背負うことは実際には不可能です。
そして、そんなことを私に突きつけられた、Kちゃんとその飼い主さん。
後日「先生、手術お願いします」との返事。
「わかりました」と覚悟を受け取り。
いざ、手術。
腎臓摘出って、いつやってもいろんな意味でドキドキして慣れません(T ^ T)。
しかも、今回のKちゃんは小腸の癒着により尿管が押しつぶされ閉塞したようで(こんなこと初めての経験)、
術野の確保も困難、いつもの2倍の時間がかかりました。
そんな、大手術も無事終了。
術中の麻酔管理も問題なく、覚醒も良好。
「よしよし!いいじゃん!!」と思いきや・・・
呼吸がおかしい。
すぐにレントゲンを撮って確認すると、肺が拡張していません。
横隔膜が動かないのか?なんなのか?
原因はともかく吸気困難。
チアノーゼ気味になりながらも、しっかりと覚醒させてから酸素室へ。
幸いにチアノーゼはすぐに治りましたが、呼吸様式は改善せず。
久しぶりの、徹夜の管理。
それでも、明け方には徐々に改善。
その後は、一般の入院ケージでの管理に移行できてとりあえずは一山越えた感じ。
でも、完全回復ではなく。
肺の拡張はイマイチだし、胃が全く動いてない。
考えられる治療は十分行い、
胃の運動を助ける薬とともに、飼い主さんが持って来てくれたお芋を少し・・・
食べても吐かないことを確認して、数日後にはとりあえず退院。
その後1週間かかって、なんとか好きなものは食べて吐かないものの、回復は60%くらい。
術後の腎臓の数値なども問題なく、手術自体は上手くいきましたが、これが超高齢犬の怖いところ。
なんとか回復の方向に向かってくれて、ホッとしていますが、
まだ、時間がかかりそうです。
と、今回はこんな話。
全ての高齢の子にあらゆる手術をお勧めはしていません。
今回はうまくいきましたが、最悪亡くなってしまうこともあります。
同じ年齢だとしても元気か?ヨレヨレか?顔つきはどうか?
最後は、その一点だけで直感的に決めている部分もあります。
温存しても、死ぬことはないような病気なら?
死なないけど、日々の生活の質が低下するときは?
切除しきれないような悪性腫瘍では?
やらなければ数日で死んでしまいそうな病気では?
全身麻酔で手術することのメリットとデメリット。
内科管理のメリットとデメリット。
長く生きて老衰でお迎えが来てくれることが一番ですが、全ての子がそうではありません。
どうやって最期を迎えさせてあげられるか?いい時間がどのくらい確保できそうか?
そこに、飼い主さんの心情がプラスされる。
永遠に答えは出ないでしょう。
自分の判断を信じてくれる飼い主さんと動物たちにしっかり向き合うことしかありません。
1件1件丁寧に対応していく!
初心忘るべからず!!
1件終わると、また来るのがいつものこと。
次も、上手くいきますように(祈)