犬の水腎症 尿管結石(尿管閉塞) 手術 術後膵炎
このところ、診ることが重なっている犬の水腎症。
言わずと知れた、シュウ酸カルシウム結石による尿管閉塞により起こります。
多発している結石に対して、猫ならば迷わずにSUBシステムを設置するところですが、
犬の場合は???
個人的(おつきあいしている先生方も)には、犬にSUBシステムを入れる気になりません。
どうしても仕方がなければ入れることも検討するのでしょうが、
経験的に、犬の方が猫よりも尿路感染症が激しいことが多いので、
「入れてはみたものの、ドロドロのおしっこですぐに詰まる」なんてことが簡単に予想できますし、
異物への反応も、もともと犬の方が出やすい。
予想ができているのに、とりあえず入れてみるなんて仕事は・・・できません。
なので、飼い主さんにもその辺のところを理解して頂き、
尿管切開や尿管転植(膀胱へつなぎ直す)など軟部外科手術で地道に対応していきます。
現在も数頭、管理しているワンちゃんがいますが、
石は残ったままだったり、水腎症も完全には治っていなかったり。
それでもみんな何とか腎臓機能も維持しており、良好な生活を送っています。
そんな犬の尿管閉塞、水腎症。
今回は、友人の病院からの紹介でいらしたトイプードルのHちゃん、11歳、男の子。
実は、来院の2週間前に膀胱結石の手術を任され、うちの病院で行いました。
その時点でも、左右の腎臓内と左尿管には多数の結石をみとめ、造影検査により腎機能と尿管の疎通を確認したばかり。
タイムリーに尿の流れが滞っていなければ、切る必要もないので、
「水腎症にならなければいいけどね」と言って、みんなでお祈り・・・・
そして数日前、そんなお祈りも効果なく、左右の腎臓~尿管はおもいっきり水腎症・水尿管症。
腎臓の数値も若干上昇気味。
「これはもうやるしかない!」ということで、入院してもらい早速手術です。
- 右の尿管は、腎臓から出てすぐのところで1センチ近くの結石が閉塞、尿管切開により摘出。
- 左の尿管は、膀胱手前で多数の結石により閉塞してしまっているため、その部分で尿管を切断し膀胱へ再吻合。
- Hちゃんは高齢になってきた事もあり、膀胱が骨盤に入り込んでいるため再吻合した尿管のテンションを逃がすため、膀胱(前立腺)を前方へ固定。
一気に3つの手術を行い、少々時間はかかりましたが無事終了。
ただし、左右の腎臓内には、エコーで見ていても細かい結石が舞っているのが確認できます。
再閉塞のリスクも当然ありますが、「とにかく、これで様子見よう」ということで、経過観察。
尿管吻合部のカテーテル留置期間もあるため、数日間の入院は必須です。
そんな入院生活も、手術翌日は良かったのですが・・・
腎機能が低下、徐々に腎臓の数値が上昇していきます。
加えて、尿培養検査から返ってきた答えは、耐性菌の感染。(腎盂腎炎も疑われます)
さらには、膀胱に再吻合した尿管へ留置しているカテーテルからは尿が確認できるのですが、
膀胱に貯まる尿がイマイチ少ない。(右の腎臓が機能を失いつつあります)
腎機能を保つために、点滴薬の追加、感受性試験に沿った抗生物質も投与。
治療すること数日、少しずつ尿量も確保できるようになり腎臓機能も改善傾向に。
良かった!なんてホッとしたのもつかの間。
今度は、嘔吐が始まりました。
胃が全く動いてない・・・!!!「急性膵炎」です。
エコーでみる十二指腸も、教科書に出てくるようなコルゲートサイン。
膵臓の周辺には、腹水も貯まってきています。
一難去ってまた一難。
腎機能保護と一緒に、膵炎の治療も始まりました。
膵炎の治療は、嘔吐を抑え、全身性に広がる炎症をしっかり抑え、最終的には強制給仕して食べさせて治す。
これしかありません。
炎症のサイクルを抑える薬剤を2剤、これでもか!的な気持ちで使用
(当病院では、このパターンで使用する機会が多いです)。
先日聞いた発表で、膵炎にステロイドが効果的と言ってましたが、
術後で感染症もあるこんな状態では、全く使用することはできません。
とにかくなんとか、もちこたえてくれるように、徹底的に治療することさらに1週間。
時間はかかりましたが、Hちゃん、退院です。
1週間後の再診の時には、元気で食欲もバッチリ!
気になる膵炎の値も正常値。
左右の水腎症は、未だ残っていますが、再吻合した部位も問題なくもちろん腎臓の数値もOK!
今後も注意して観察していかなくてはいけませんが、とにかくこれでひと段落。
本当に良かった・・・(最高に気持ちが入ってしまってます)。
どの手術もそうですが、ぜひすんなり終わっていただきたい。
そう願います。