犬の甲状腺癌 手術
ある日やってきたHちゃんと飼い主さん。
「先生、喉にしこりがあるんです」
どこですか?って触ってみると。
気管の横に、3~4cmくらいのしこり。
場所からいっても、甲状腺が一番疑われます。
過去には違う腫瘍だった経験がありますが、まず真っ先に疑うのはやっぱり甲状腺。
という事で、それが何者なのか?
診断をしなくてはいけません。
一番ダメージが少なく、情報が得られるのは、針生検。
腫瘤に注射針を刺して、細胞を採取し、染色して観察します。
腫瘍は、幸い痛覚というものがありませんから、通常痛がることもありません。
逆に痛がるなら、それは腫瘍ではないのかも。
しかしここで問題なのは、甲状腺腫瘍は、血管が豊富な事です。
なので、その他の診断もしながらエコーをあてて、血流もみてみます。
なにしろ首ですから、大きな血管も隣接して、やっぱり腫瘤の内部も血流は豊富。
通常使う針よりも2つ細くして。
手術も見据えていますからそれも含めて、念のための血液凝固系も検査。
そして、採れた細胞をみると、甲状腺腫瘍を疑います。
飼い主さんと相談して、外部の病理の先生にもコメントをもらうことにして…
さあ、どうするか?
甲状腺などのホルモンを出す臓器は、一般的に血管が豊富で大血管に近い場所にあります。
なぜなら、分泌したホルモンを全身に送らなくてはいけないからです。
そのため、癌化すれば血行性の転移も起こりやすくなります。
そして甲状腺腫瘍は、ほぼ間違いなく癌。
私は、二次診療施設に所属するような腫瘍専門医ではないので、
甲状腺腫瘍が毎年のように来院するわけではありません。
実際に手術したのは数年前。
その時は、今回よりももっと大きくガッチリだったので、術前にCT撮影も行い、結果、肺転移もありました。
が、このままにしておくと、気管や食道の圧迫、周辺の大血管や神経への障害など、
腫瘍細胞が全身へ広がり亡くなってしまう前に、
局所の腫瘍増大による物理的な問題で生活が辛くなることも予想されます。
そんな状況の中、飼い主さんとも話し合い手術に望み、無事に摘出。
残念ながら、4ヶ月後には亡くなってしまいましたが、
飼い主さんともいい時間が過ごせたのではないかと感じています。
色々と考えさせられる、甲状腺腫瘍。
今回のHちゃんに場合は、そのものが可動性もあるため、摘出はしやすいと判断。
CTは撮影せず、転移はレントゲン等で評価して、無しの判断。(賛否あるでしょうが)
とはいえ、明るい話もできませんが、予後の問題も理解していただき、手術となりました。
甲状腺腫瘍の摘出は、出血のコントロールとならんで、隣接する反回神経の保護も重要になってきます。
この神経を切除してしまうと、声がかすれたり・嚥下に問題が起きる事もあります。
片側だけなら問題は起きにくいとされていますが、残せるものは残した方がいいに決まっています。
ちょうど、鉗子が指しているところが反回神経。
このほかにも、神経が隣接しています。
それらを残しながら、結んで切っての繰り返し。
甲状腺癌は両側性に発生することも知られているので、目視と触診で反対側の甲状腺も確認。
(両側となればそれはそれで、術後の管理が大変なことになりますので話が全く違う次元です)
そして無事に終了。
数時間後には、食事もとれて。
出血の経過を診て、翌日には退院。
今後は、抗がん剤などの使用も検討しながら経過を診ていく事となります。
実はこのHちゃん、他の悪性腫瘍の治療観察中でもあります。
癌は、外科的に切除すれば全てが終わりとは限りません。
私のところに、しばしば来院する膀胱移行上皮癌も色々と考えさせられる癌のひとつです。
癌の種類、その時の年齢、できてしまった場所、完全に摘出可能なのか?
治療方法によるメリット・デメリット
色々と飼い主さんとも話して、時には外科手術をお勧めしないこともあります。
皆さんの参考になれば幸いです。