術前検査の大切さ 子犬・子猫の手術
手術を行う前には、必ず術前検査。
「安全に麻酔をかけることができるのか?」
「どの程度のリスクがあるのか?」
そんなことを把握して、飼い主さんと話をするために、
一般的な血液検査や血液凝固系検査、胸部(心臓)のレントゲン検査などを行います。
病気の手術であれば、「血液検査の結果が悪い、リスクがある」なんてことはごく当たり前で、
私のところに緊急で来るような泌尿器の問題を抱えた子たちで言えば、「こんな数字で麻酔かけるんですか?!」なんて普通の先生方にしてみれば驚くことも多々あり、それでもやらなきゃ亡くなってしまうリスクが高ければやるしかない。なんて状況なのですが。
我々獣医師には、1歳以下の子犬・子猫に行う、去勢手術や避妊手術があります。
これらの手術は、予防的な意味合いが強く、ある意味やってもやらなくてもそこは飼い主の自由であり、
「後々、生殖器関連の病気になったときに行う手術のリスクをとるのか?」
「性関連の行動や体に起こる変化をどこまで許容して飼育するのか?」
今まで、2頭3頭なんて飼ってこられた方は色々と経験して、それなりの判断ができるかも知れませんが、
初めて犬や猫を飼う方にとっては、その辺りもなかなか想像がつかないでしょう。流れ的にやることが当たり前みたいなことでもありません。
とは言え、獣医師の立場ではなく飼い主の立場としての私は、今飼っている犬も猫も、先代の犬も去勢避妊手術を行いましたし、やったことに関しては良かったと判断しています。
繰り返し言いますが、「やらなきゃいけない手術」ではありませんので、ご家族でよく話し合ってもらうことが必要、我々も家族の総意がないと安易には引き受けられません。
そうです、去勢手術も避妊手術もやっぱりリスクがあるからです。
なので、術前検査にはより慎重な判断も必要となります。
今回は、そんな避妊手術をまさにこれから受けようとしているPちゃんの話です。
手術を受けるには、まず手術日を決定してもらいます。そして、手術日の1週間以内で上記のような術前検査を行います。
術前検査を行っている最中に、手術の方法やリスクの話、手術当日の準備や入院から退院までの流れ、手術前後の処置などをお話ししています。
ってそんな話をしている中で、勤務している先生が撮ってきてくれた胸部のレントゲン。
心臓の聴診をしても特にこれといった雑音も聞こえない。ここに至るまでに特にPちゃんに症状もない。
でも、なんか血管の見え方に違和感があります。
一応その場の説明では、「問題ないと思います」とお伝えしたのですが。やっぱり気になる。
で、その週に行われる定期的な画像診断の勉強会で、レントゲンと見てもらうことに。
すると、やっぱりその先生も私と同じ違和感(異常)をおっしゃいました。
「これは、心臓を精査した方がいいと思いますよ」
私の違和感だけではなんとも言えなかったので、これで手術に進むのをちょっと足踏み。
その場で、大学病院の循環器専門医にLINEで連絡。(仲間内の先生なので^_^)
その先生も、「これおかしいですね」って回答。
じゃあってことで、そのまま専門医に精査を依頼。「問題ありません」の正確な診断は、やっぱり私よりもよく診ている先生にお任せすることが一番だと考えています。
そして、飼い主さんに連絡。
「こうこう、これこれでPちゃん異常があるかも知れないので、ちょっと手間ですが大学病院まで行きませんか?」ってご提案。しかも診てくれる専門医は、この血管系大得意(もちろん全般、頼りになります)。
異常がなければそれでよし。
異常があったとすれば、今後のことも専門医と連携をとって診てあげられます。
結果は、「先生、異常ないです!手術(麻酔)も大丈夫だと思いますよ」って電話連絡。
「良かった」
飼い主さんには、診察費も通院の手間もかかったし、Pちゃんも大学病院の受診は怖かったかも知れないけど。「先生、異常ないということで安心しました」とおっしゃってもらい。
改めて、日程を組んで避妊手術をすることになりました。
ここ数年、流行りの犬種も小型化しているせいなのか?
特に犬の避妊手術や去勢手術において、トラブルを頻繁に経験しています。
多くの問題は、術後数時間のうちに発見され対処することになります。
特に多いのは、止血異常です。
術前検査は問題なし。術前検査の採血部が止まらないなんてことももちろんなし。
私の手術手技の問題であれば改善することでトラブルは少なくなりますが、そんなことでもない。
大きな血管や臓器の離断は、シーリングか結紮により止めます。それが使えない様な出血は電気メスで焼烙。
もちろん、全ての出血がないことを確認してお腹を閉じて、皮膚も閉じて手術を終わります。
ほとんどの子達は、これですんなり終わって退院していきます。
でも、通常ならほっておいても止まる程度のごく僅かな皮下出血などが止まらず、ひどいと皮下のスペースに血溜まりができてしまうほど。
中には、輸血を必要とするケースも数例あり、たくさん失ったとしても結果止まってくれればいいのですが。残念な結果になってしまった子も初めて経験しました。
果たして、術前検査の項目をさらに増やせば防げる問題なのか?(当院は検査項目が多い方だと思います)
どれだけの検査を我々獣医師も行うべきなのか?
そのほかには、「腹膜硬化症」と言われる腹腔内の構造異常。
各臓器が癒着しているため、卵巣と子宮がすんなり出てきてくれません。お腹を開けてみないとわからない異常で、開けた瞬間「あっ!まただ」なんて。
研修医時代に大学病院でみたことがありましたが、ここ2〜3年間で、もう6例ほど経験しています。うち1例では、癒着が重度なためリスクが高く摘出をあきらめた子もいました。
友人たちの病院でも経験する話を耳にします。
今年も終わろうとしています。
手術に限らず、内科治療においてもいろいろなことが起きます。期待に答えられないこともあります。
獣医学は飛躍的に進歩しましたが、やっぱり人の医療の様にはいかず、考えられること・出来得ることを全て行って、最後は犬や猫の生命力に頼るしかないような我々の現状。
毎年、新年には「今年も良い仕事ができますように」と祈り、日々研鑽を重ねるしかありません。
今年も飼い主さんたちをはじめ、業者さんや各病院の先生方、そのほか多くの方々に大変お世話になりました。
「結石が詰まっておしっこが出ない」なんて子も来ましたし、友人からも症例相談のLINEをもらいました。
年内の仕事はまだ残っていそうです・・・
昔どこかの先生が、「1月1日なんてただの翌月の1日だ」なんて言っていたことがありましたが・・・^^;
みなさま、良いお正月をお迎えください。
おおくぼ動物病院 www.okubo-vet.com