犬の口腔内腫瘍の手術 悪者と良いものだけど・・・ 下顎部分切除術
犬の口腔内にできる腫瘍には、大きく2つ悪者と良い者があります(当たり前か)。
悪者の代表が、悪性メラノーマ(悪性黒色腫)や扁平上皮癌。
良い者は、エプリスなどの良性の腫瘍。
ほとんどの子たちは、飼い主さん自身で発見し
「先生、口の中に出来物があるんですけど」と言って来院されます。
ここまでは時々ある診察の会話。
そんな「先生、こんなのが・・・」症例がここ3ヶ月、毎月1症例ずつ来院。
はじめに来たのは、ずっと診ているキャバリアのEちゃん。
こんなのができちゃってます。
左の下顎犬歯を囲むように赤く膨らんでいる腫瘍。
組織検査の結果、悪性メラノーマ。
とにかくとるしかありません、が、今回は下顎。
上顎と違って、下顎の場合はおもいっきり顎の骨ごといきます。(下顎部分切除)
幸い、骨まで浸潤していないことも確認できたので、部分切除でOK。
骨の標本でいうとこんな具合です。
赤の線で完全に切除(切断)します。
飼い主さんからすると、相手は悪性腫瘍ですから、治療の大変さはもちろん分かってはいても、
このような手術を受けなくてはいけないことにもちろんショックですし、
さらには、術後の容姿の変化も気になると思います。
そんな術前の説明は、
「一部出血を伴う箇所があるので、止血を確認して術後の再出血の観察も行います」
「痛みに関しては、しっかりとした痛み止めを使って行います。でも犬は意外と平気そうで、すぐに食べ始めますよ」
「容姿に関しても、この手術であればぱっと見はわからないと思いますし、私もうまいこと縫います」
っとこんな感じ(実際にはちゃんと時間かけます)。手術も1時間か1時間半くらい。
出血のコントロールもしっかりできて、Eちゃんもすぐに食べ始めました。
次に来た子が、ダックスのSちゃん。
数年前に膀胱が突出した会陰ヘルニアの手術を当院で行い、隣の市から久しぶりの来院。
飼い主さんとも「あ!!お久しぶりです!その後お尻はどうですか?」なんて会話もそこそこに、
「実は、先生。こんなものができちゃって・・・」
これも、組織検査で悪性メラノーマ。下顎部分切除で対応。
続くときは、続くもんだな。なんて、スタッフみんなで話していると
今度は、さらに隣の隣の市からいつも来院している、Wちゃん。
「先生~、なんかできてる!!」
って、続きすぎだろ。
メラノーマかな??やだな。なんて組織検査してみると、今度はエナメル上皮腫。
エナメル上皮腫は、良性の腫瘍です(ここまでは一安心)。
が、骨を溶かして進行して行くので、腫瘍だけちょんと切っただけではダメ。
良性腫瘍ではあるけれども、やっぱり下顎部分切除で対応します(メラノーマよりは範囲は若干小さめ)
悪性と良性、やることは一緒の下顎部分切除。
みんな術後の経過は順調。悪性腫瘍の子達も、しっかりとマージン確保。
心配された容姿についても。
大きな変化はありません。唇をめくればわかる?めくっても言われないとわからないかもしれません。
要するに、そんな程度に治ります。
悪性腫瘍の場合は、大きくとるためにこのような手術を行わざる得ませんが、
良性に分類される腫瘍でも、物によっては大きな手術が必要となります。
3連チャンなんて機会は、もう結構です。
が、その甲斐あって私自身も大変勉強になりました。