犬の肝臓腫瘍 手術 完全肝葉切除
今回の話は、12歳になるマルチーズのKちゃん。
小さい頃から診ている患者さんです。
(白黒にしてますが、文章後半には手術中の写真も含まれています。)
2年くらい前から、胆泥症の治療のため内服を継続していたのですが・・・
数ヶ月前におこなった定期検査で、それまで3桁だったALPの値が、4桁に!!
レントゲン検査とエコー検査により肝臓に腫瘤がある事が判明。
出来た場所は、右側の外・・・(外側右葉か尾状葉が疑われます)
エコー像は、正常な肝臓と同じく均一で、過形成(良性腫瘍)も疑える所見でした。
ヒトの肝臓とは違い、犬の肝臓は6葉に分かれています。
左側の外側・内側、中央に方形葉、右側の内側・外側・尾状葉
「左よりも右の方が摘出は難しい。」というのが獣医学の定説。
じゃあ左が簡単かというと、そんな事ありません。
右でも左でもそこは肝臓。。。大血管が走行&それ自体が血液の塊のような臓器(腫瘍ならなおさらもろい)です。
ミスとかいう話じゃなく手術中に大出血すれば、術中死の可能性だって大げさな話じゃありません。
そんな状態なのに実際には、Kちゃんはいたって元気(肝臓腫瘍とはそんなものなのかもしれません)。
しかも右側。
大学病院の肝臓を得意とする外科の先生とくらべれば、私の経験など微々たるもの。
過形成の肝臓に手を出して、大出血なんて事も頭をよぎり、正直および腰・・・
飼い主さんともお互いに腹を割った話し合いを続けながら、しばらく様子をみていました。
が・・・
あんなによく食べていたKちゃんなのに、ある日を境にご飯を残すようになってきました。
飼い主さんは、「なんか食べたいのに、食べれないみたい」と教えてくれます。
うーん?!?!
たしかにこの数ヶ月間、徐々に大きくなっていった腫瘤。
検査をしてみると・・・
大きくなった右肝臓の腫瘍が、胃と十二指腸を左側に押しやっています。
これでは、胃も膨らみませんし、ご飯も残してしまいます。
こうなると、仮に過形成といえども外科的な切除が望まれます。
飼い主さんは「専門医じゃなく、先生に託します」といってくれます。
みんなで腹を決めて、いざ手術。
「でかい!!」
想像はしていましたが、やっぱりでかい。
しかも1つの塊が横隔膜側の根本まで続いています。
「こりゃあ、過形成じゃないな」一緒にやってる先生と顔を見合わせます。
これを摘出するにはとにかく、腫瘍の背側に指が入らないと始まりません。
ぐいっと!!
入りましたが、腫瘍から出血も始まりました。
これだから、肝臓の腫瘍は嫌です。
こうなれば、躊躇せずに一気に根本までアプローチ。
肝臓に流入している大血管を糸で縛って!!!!!
出血も止まりました
みんなで、ほっと・・・「よかったァ」
あとは、少しのりしろがあった肝臓実質を特殊な機械で切断。
完璧に摘出できました。(正直ラッキーだった要素もありました)
術後は、輸血して、炎症を抑えて、ダメージからの回復を待ちます。
結構な貧血状態になりましたが、Kちゃんは翌日から食べ始め(ヒトなら考えられません)。
みんなで一安心。
3日目には貧血も改善し始めて、その後退院となりました。
気になる病理結果は・・・「肝胆管癌」
見た目通り、悪者でした。(エコーだけではやっぱり見分けがつきません)
もう少し大きくなったら、出血も起こしたかもしれません。
今後も経過観察が必要ですが、
転移病巣もなく、摘出も上手くいったので、予後は期待できます。
Kちゃん。小さい身体でよく頑張ってくれました。
とはいえ、託された獣医師としては(私の事ですが)・・・
術前のプレッシャー・術中の修羅場・術後のドキドキ
経験を積まないといけない事もわかっていますし、やってみてわかる事もいっぱいありますが・・・
今年に入って2件目の肝臓腫瘍摘出(前回は術前からお腹中血だらけ、待った無しの症例でした)
当分、肝臓は結構です。