後足の麻痺
馬尾症候群という、神経が圧迫されて起こる病気があります。
脊椎の中に神経の本線(脊髄)が走っています、最終的に腰椎~仙椎(骨盤の骨)まで達し、そこから細かく枝分かれします。これらの神経が、馬のしっぽのように見えるので、その領域のことを馬尾と呼びます。
中年以降の大型犬に多いとされていますが、小・中型犬や猫でも起こることがあります。
原因は、腰仙椎関節が不安定になること(中には、腫瘍ができて圧迫されたりすることあります)で発症し、後足の麻痺、腰の痛み、排尿障害などの症状を訴えます。
症状の程度によっては、腰仙椎関節を固定するような手術も必要になります。
ある日のことです。いつものように診察をしていると、久しぶりに見る顔の子が来院しました。
13歳になった柴犬のGちゃん、飼い主さんのお仕事の関係でしばらく茅ヶ崎を離れていたのですが、先日また戻ってきたとのこと。少し見ない間に、ずいぶんおじいちゃんになって、また違う可愛さが出ていた感じ
「おひさしぶりです」のご挨拶も早々に、よく見ると左の後足に麻痺(足の甲でつくような感じ、ナックリングといいます)が出ていました。明らかに、右足と比べても筋肉量の減少も見られ、ぶんぶん挙がっていたしっぽも挙がらず、少し痛みもある様子。
飼い主さんの話だと、ここ1カ月くらいのことらしく、大好きな散歩もいまいち行けないようで・・・
レントゲン検査をしてみると、腰椎~仙椎の関節に問題がありそうでした。
神経検査からも、馬尾症候群を疑う所見です。
そこで、飼い主さんと話し合い・・・
。。。馬尾症候群?!
私は、幸いなことに、毎月神経科の先生の講義を受けさせて頂いています。そういえば、その講義の中でこんなことを聞いたことがありました。「大学病院でも、高齢すぎて麻酔がかけられない子に最近こんな薬を使っています。結構効果がありますよ!」。。。。
ヒト用の薬なので、獣医療ではまだ正確なデータはないですが、副作用もそれほど心配いらないので、試験的に投与してみましょうか?
効果ありです!写真のように、後足しっかりしてきました。さすがに以前のような健常な足とはいきませんが、セーブしながら散歩も可能です。
今回のGちゃんは薬に反応して良好な経過が得られています。本当であれば、確定診断のために脊椎造影検査やMRI検査が必要です。どちらの検査も麻酔が必要で、腫瘍や他の病気の可能性も考え1発で決めるとなれば、MRIがベター。当院には、MRIなんてないですから、どこか施設に行っていただかなくてはいけません。
高度な検査、治療が必要であれば、もちろんすぐさま行ってもらうようなご相談もさせていただきます。しかし、今回のような症状が切迫していない場合や、飼い主さんのもろもろの希望がある場合、「うちの病院で最大限できることを行う」町医者(1次診療)としては、今回のような方法「あり」かと思います。
最近は、高額な医療機器を有する病院もありますが、なかなかそうはいかないわけで、今ある医療機器の中で、どれだけやれるか?
そのためには、診断精度の向上や治療知識・技術の向上、これからも日々精進です。
Gちゃん!帰りの分の体力を計算して散歩してね!そうじゃないと、帰りは抱っこになっちゃうから